No.006 人と神様の関係について

 神様。

 このワードを見て、第一に、人は何を思い浮かべるだろう。
 菩薩? お釈迦様? それとも、聖母マリアかイエス・キリストか。あるいは、つるつるの頭に白いひげをたくわえ、古代ローマ人を思わせる白い布をまとい、魔法使いが持つような杖を持ったおじいさんか……それくらいのものだろう。
 宗教に縁遠い私には、どうも、前述したおじいさんのイメージが染み付いているようで、それがまた、どうも、近頃ちょっかいを出してくる自称神様(笑)の為人と重ねられず、どうにも、相反しているような気がしてならないのだ。

 ……たぶん、私の想像力が乏しいことに原因があるのだと思う。

 神様なんて目に見えないものを当てにしたことがなければ、信用したこともない。だから、どのような姿をしているのかなんて考えた試しがなかった。
 こんなことを言いうと、信じている人にこっぴどく怒られそうので、私個人の勝手な見解くらいに思って欲しいのだけれど、「神頼み」という言葉があるように、人は事あるごとにいもしない神様に助けを求める。私もきっと、自分の力ではどうすることも出来ない事態に直面すれば、信用してないかつての自分を棚に上げて、思いつく限りの神様に助けを乞うのだろう。私達人間にとって、神様とは、そういう都合の良い存在に思えてならないのだ。

 あの変人が現れてから、今のように、自ずとこのワードについてあれこれ思考を巡らせてはいるのだけど、やはり、不足した知識量と想像力では、納得のいくような答えが出るはずもない。
 しかし、諦めるにはまだ早いのだ。今のご時世には、本だのインターネットだの、心強い味方がいくらでもいるのだから。
 ということで、今、目の前には、図書館で借りた分厚い本がでんと置かれている。神様の何について調べようか悩んでいたとき、ふと思い出したのだ。神様が一番始めに作ったと言われる、男女二人の人間の名前を。

 アダムとイヴ。

 古びた表紙には、そう書かれている。十センチはあろうかというその厚みから溢れ出す威圧感に押されながら、私は本を開いた。

 ……結果から言ってしまうと、私は最後の章まで目を通すことはなかった。まあ、これは始めからわかっていたことだけど……。小難しいでは済まされないほどのややこしく面倒臭い言葉の数々に、気力がごりごりと削られていったのだ。
 ただでさえ、あの痛々しい電波男に頭を悩ませていたというのに、何故こんなことで余計に頭を抱えなければならないのだろう。そう思ってしまったが最後、ばしんっと本を閉じ、翌日には、アダムとイヴは図書館へ返却されていったのである。

 そんな中でも、一応、学べたことがあったので、よしとする。難しい本を読まなくても、いつだったか、この話を知る機会はあったので、そのときの記憶を頼りにしながら、今回得た情報を重ねてまとめると、こうだ。

 神様は、この世界を作り終えたあとに、地面の土を使って人の形を作り、命を吹き込んでアダムを生んだ。さらに、彼の肋骨からイブを作り出し、二人をエデンの園に置く。
 アダムとイヴは、神様から下された「園にあるうち、知恵の木の実だけは食べてはならない」という命令を厳守していたが、あるとき、一匹のヘビがイヴをそそのかした。

「知恵の木の実を食べれば、あなたは善悪を知り、神と平等の存在になれる」

 その言葉を信じたイヴはアダムに伝え、二人は神様の命令に背いて、知恵の木の実を食べてしまう。これにより、二人は自分達が裸でいることに恥を感じて、体を葉で覆い、園にやって来た神様を見て身を隠した。

 神様は尋ねた。

「何をしているのか」

 アダムは正直に答える。

「我々が裸でいることに恐れを感じ、身を隠したのです」

 神様は、知恵の木の実を食べたのか、と続けた。するとアダムは、

「いいえ、木の実を食べたのはイヴだけです」

 これが、アダムが犯した最初の罪となる。
 神様はイヴに、子を産むことと、それに伴う痛みの罰を与えた。
 アダムには、人生を通した労働の罰を与え、最後に、二人を園から追放したのである。
 それからアダムは、自分達が生きていくために働き、イヴはアダムとの子孫を残した。子孫達はさらに子孫を残していき、そのうちに、今に至る全ての人類の祖先が誕生したのである。
 あらゆる生物が女から生まれてくるのに対し、イヴはアダムから生まれたことで、特別視してしまうが、聖書に言わせれば、アダムとイヴこそが人類の原点なのである。

 ……と、ここまでまとめたところで、私の知っている神様とはやはり結びつかないことがわかる。
 くだらない話題でむきになる子供のようなあの男が、全知全能で、天地を創造し、私達人間の原点を作り出したなんて、笑い話にもなりゃしない。

 やっぱり、行き着くところは、ここなんだわ。
 あの自称神様(笑)は、どう転んでも、自称・神様なんだって。

 考えるのも飽きたところで、私は、時計を見た。そろそろ夕飯の買い出しに行かないと。
 今日は麻婆茄子にでもしようかな。そう思いながら部屋を出て、買い出し用の財布とエコバッグをポケットに突っ込むと、近所のスーパーを目指して、家を出た。